2017年01月23日

【裁判員裁判】 被害者のプライバシー問題 その後

こんにちは!
office kei カウンセラーの中島です。

寒いですね。
今朝起きたら近所の家の屋根に薄っすらと雪が積もっていました。
都市高速が止まっているそうです。
お出かけの際には足元に気をつけて。
暖かくしてお過ごしくださいね。


今日は性暴力被害についての記事なので、フラッシュバック注意です。




最近、児童虐待の勉強をしなおしています。
今年の4月に法律の改正されることもあり
古くなってしまった知識のメンテナスといったところです。

一番対応が難しい性的虐待について調べているうちに
裁判員裁判以降、性犯罪での起訴が激減しているというニュースに行きあたりました。

ソースはこちら↓
強姦致傷罪での起訴は裁判員裁判以降、激減した
https://www.buzzfeed.com/kazukiwatanabe/prosecutor-did-not-indict-takahata?utm_term=.tx8PMxx7W#.mt0PpQQxG

裁判員裁判が始まった2009年当時、私もこのテーマに関して様々なエントリーをあげました。

「裁判員裁判・プライバシー問題」
http://akiras-room.seesaa.net/category/25690068-1.html

ただでさえ性犯罪の被害者は訴える人が少ないのです(内閣府の調査では約4%)。
自分が遭った事件の詳細が裁判員という一般市民の目に触れることは、被害者にとってどれほどの苦痛でしょうか。
裁判員裁判では極端なビジュアル化と口頭主義が貫かれているため、過剰演出による詳細な読み上げが行われます。私が傍聴に行った裁判でも検察官によりお芝居のように供述調書が読み上げられました。
【参考】 裁判員裁判 問題が山積み(2)
http://akiras-room.seesaa.net/article/391808472.html

事件の詳細が傍聴人にも聞かれてしまうわけですね。
これでは、訴える人が減る、あるいは取り下げる人が増えても仕方がないことだと思います。


昨年の暮れに「裁判員等選任手続での被害者特定事項の保護」が、やっと法制化されました。
これ自体はずっと望んできたことですし、素直に喜びたいと思います。

・裁判官,検察官,被告人,弁護人は,裁判員候補者に 被害者特定事項(注)を正当な理由なく明らかにしてはな らない。(第33条の2第1項)
・裁判員候補者又は裁判員候補者であった者は,裁判員等 選任手続で知った被害者特定事項を公にしてはならない。 (第33条の2第3項)

しかし、先述しましたように裁判員制度を導入したことで裁判の様相が一変してしまったことは変わりありません。それによって性犯罪の告発が減り、結果的に犯人は野放しになりさらなる被害者が増え続けていることに目を向けるべきでしょう。
私は未だに性犯罪は対象事件から外すことを強く望んでいます。

どこにどのように訴えていけば実現するのか、無力感が押し寄せますが…。
今は、たくさんの人と手を繋ぐことが必要なのでしょう。
誰かと手を繋ぐために、少しづつでも書き続けていきたいと思います。





おわび
※ ブログ移転以来、リンク切れが多発しています。ご不便をかけてすみません。



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2009年11月19日

【裁判員裁判傍聴】問題が山積(2)

私の考えたこと(というか雑感)を書く前に、裁判員として参加された方達の感想を新聞記事から引用します。

性犯罪審理に裁判員苦悩 参加する意義 認める意見も 福岡地裁判決(西日本新聞 2009.10.24)【魚拓
 6人の裁判員の中で唯一の女性だった20代の学生は判決後の記者会見で、「一般女性としての素直な意見が反映される点がすごく大きいと思う」と前向きにとらえた。一方で「被害者にとって、裁判員に名前が知られるとか、(傍聴者にも)具体的な犯行内容が分かる点がきついと思う」との懸念も口にした。

 法廷では、被害女性が事件の状況を詳細に語った調書を女性検事が情感たっぷりに読み上げた。まるで劇を見るような一幕に、裁判員は一様に性犯罪を審理する苦悩をのぞかせた。福岡市の50代の会社員男性は「女性の体の一部を言葉として表現するのはいかがなものか。AとかBなどの表現に言い換えた方がいいのでは」と話した。

西日本新聞10月21日朝刊
当日、傍聴されていた支援グループのメンバーの方とともに、新聞数社から取材を受けました。インタビュー部分は西日本新聞の記事が一番詳しいようです。
ネット版には載っていなかったので切り抜きをスキャンしました。
(〜「詳細描写」朗読に疑問も〜以降がネットにはなかった部分)
クリックで拡大します。







■ 口頭主義の弊害

裁判員裁判で性犯罪が審理されることの大きな問題点の一つは、被害者のプライバシーが脅かされることです。
裁判所がプライバシー保護に相当気を使っていたことは評価したいと思います。しかし、裁判員の感想や新聞記事にもあるように、被害者が特定されてしまうほど詳細に供述調書等を読み上げる必要はなく、詳細は文書で示し裁判員に読んでもらえばすむ話です。

口頭主義の弊害はそれ以外にも「検察の過剰演出」という形で現れています。個人的には口頭主義を逆手に取った検察側の法廷戦略だと考えていますが、これは性犯罪事件の場合だけではないのかもしれません。

時間をかけ相当な練習を積んで来たことが見て取れました。3人の検察官それぞれが、ナレーション(説明部分)、被害者役・被告人役と年齢も当事者に近い人が「配役」され、感情を込めてというより芝居がかった朗読でした。いささか鼻白む思いがしたというのが正直なところです。裁判員の知性ではなく感情に訴えかけるようなプレゼンでした(検察は裁判員を馬鹿にしているのだろうなぁ・・・と思ったのは内緒)。
弁護人が国選であった場合は、このようなプレゼンテーションは望むべくも無く、被告人の不利は目に見えています。真実の追究ではなく、裁判員の心情のみに訴えることを旨とした、こうした手法がまかり通るようであれば刑事裁判の公平性は失われてしまいます。


■ 供述調書の一人称は「私」

実際に傍聴して気づいたのが供述著書の一人称が「私」になっていることの不自然さです。これまでにもテキストを読んだことはあったのですが、演出付きで聞いてみて供述調書が検察官の作文だということに改めて気づかされました。

被告人、被害者を問わず、取り調べや事情聴取は対話形式で行われるわけですが、そこで警察や検察が何を聞いたかによって出てくる供述が違ってくるのは当然です。しかし、供述調書として出来上がったときには、質問はすべて除かれ、あたかも当事者本人が自分から語ったかのごとくよどみない文章になるのです。供述を切り貼りする検察官や警察官の腕一つで、本人とは全くの別人の様な印象をつくりあげることも不可能ではありません。うまく表現できないのですが、供述調書のなかに検察官がつくりあげた別のキャラクターがいるとでもいいましょうか。これは被害者にとっても辛いことだろうと思いました。

取り調べの可視化を求める声は大きいですが、供述調書を実際の対話に基づいた逐語形式で記載することで、この辺りはクリアできるのではないかと考えました。ちなみに今回の裁判で検察官は、強調したい部分のみ「対話形式」で被告人の供述調書を読み上げたことを特に付記しておきたいと思います。


■ 裁判ショーの観客たち

当日の朝、傍聴整理券の配布を待っていたとき、一人の初老の男性が裁判所職員と押し問答をしている場面に出くわしました。その男性は薄ら笑いを浮かべながら「被害者の顔は見られるんね」と聞いていました。職員にはその質問の意図するところが分からなかったようで「裁判員からは見えるかということですか」「被告人から見えるかということですか」とか「傍聴席から見えるかということですか」など聞き返してましたが、男性は「被害者の顔は見られるんね」と繰り返すばかり・・・。
この初老の男性が聞きたかったのは「今日は被害者が証言するのか。それを自分たちは見ることができるか」ということでした。職員に「被害者は出廷されないと思います」といわれ、少しがっかりしたようですが早々に列に並んでいました。性暴力事件裁判の傍聴を趣味とする人なのでしょう。

抽選に外れたようで傍聴席に件の男性は現れませんでしたが、傍聴席の中央部最前列には先の男性と趣味を同じくすると思われる面々が数人陣取り、公判中は熱心にメモをとっていました。

公開されている裁判ですので誰しも傍聴する権利は保障されています。その人が、どんな意図で聞きにきたとしても。
これまでの裁判と違い、上手に配役され情感たっぷりに、しかも詳細に読み上げられる供述調書を彼らはどの様な思いで聞いていたのでしょうか。口頭主義による過剰演出と詳細な読み上げは、今まで以上に「観客」を引き寄せてしまうのではないかと非常に危惧しています。


■ 罪刑法定主義(それ自体が問題だというわけではないのだけれど)

検察官のさじ加減一つで罪名が決まるといっても過言ではありません。裁判員裁判で審理されるかどうかは検察官がどういった罪で起訴するかにより、強姦罪も強制わいせつ罪も「致死傷」がつけば裁判員裁判の対象になります。同じ性犯罪被害でも傷害を負った場合は衆目にさらされなければなりません。

これまでの裁判でも多くの被害者達が大きな犠牲を払い苦痛を被ってきました。制度が導入されたいま、裁判員のみならず傍聴人にまで被害の詳細を知られてしまうのは、今まで以上に被害者に苦痛をもたらすであろうことは明白です。こういったことが続けば告訴をあきらめる被害者はますます増えるでしょうし、心ならずも致傷の部分を主張しない(犯人の罪を軽くすることになる)被害者も多くなるのではないかと思います。


■ 裁判所は教育機関なのか

強制わいせつ 被告に懲役2年6月 福岡地裁判決 裁判員「精神的に負担」(西日本新聞 2009.10.24)【魚拓
 記者会見に応じた裁判員(男性5人、女性1人)と補充裁判員(女性2人)は20−60代の会社員や主婦、学生だった。

 裁判員の50代男性は「いい勉強になった。(裁判員裁判で)世の中がいい方向に向くようにしてもらいたい」と述べた。補充裁判員の40代女性は「この経験を生かし、少しでも犯罪を減らせるよう協力したい」と語った。

この裁判では被害者プライバシーに対する配慮以外にも、検察官が性犯罪被害者の立場や気持ちを、できる限り代弁しようとしたこと、言い換えると「相手が望まない性行為を強要することは暴力なのだ」という基本的な理解を求める努力をしたことは評価できると思います。

引用した記事にも「いい勉強になった」「この経験を生かし〜」という感想がありました。裁判員になった方達が少しでも性犯罪被害者のおかれた苦境を理解してくださったことはありがたいと思います。その反面、検察官の努力に依らなければ被害者の心情も性犯罪の実態も伝わらないという現状を表しているとも言えますね。
性犯罪や性暴力に対する誤解(レイプ神話といわれるもの)を解くためにも正しい理解を促す啓蒙は行われるべきですが、それは法廷という場でやることではありません。



詳細に記述することを避けたため抽象的な表現にり、どの供述や文言に対して私がそう感じたかなど具体的には記述できませんでした。隔靴掻痒の感は否めません。
また、性犯罪事件の審理の問題点だけに絞り込むことができませんでした。当日、傍聴されていた他の支援グループの方達が、(たぶん)私と同じ感想を持っているわけではないということもお断りしておかなければなりません。

このエントリに書いた以外にも裁判員制度そのものについて考えさせられる点が多々ありました。それについては稿を改めて、また。



■ 関連エントリ

裁判員裁判 初の性犯罪事件(追記あり)
http://akiras-room.seesaa.net/article/391808430.html

誰のための裁判だったのだろう
http://akiras-room.seesaa.net/article/391808433.html

被害者のプライバシーは本当に守られるのか(1)
http://akiras-room.seesaa.net/article/391808389.html

被害者のプライバシーは本当に守られるのか(2)(追記あり)
http://akiras-room.seesaa.net/article/391808390.html

問題だらけの裁判員制度
http://akiras-room.seesaa.net/article/391808267.html

2009年11月16日

【裁判員裁判傍聴】問題が山積(1)

先月20日から福岡地裁で行われた、強制わいせつ致傷の公判を傍聴してきました。すぐにエントリをアップしたかったのですが、諸処の事情で延びのびになってしまいました。

私が傍聴したのは20日の初公判だけなので、事件の概要や裁判の様子を新聞記事から引用しつつ紹介します。

裁判員裁判:九州・山口初の性犯罪事件、被害者名伏せ審理 2次被害配慮−−福岡地裁(毎日新聞 2009.10.21)【魚拓
 強制わいせつ致傷事件を審理する裁判員裁判が20日、福岡地裁で始まった。九州・山口初の性犯罪対象の裁判員裁判。裁判員選任にあたり、福岡地検が事前に裁判員候補者名簿を被害者に見せて知人がいないかどうか確認。法廷では、大型ディスプレーを使わないなど、被害者のプライバシーや2次被害への配慮がうかがわれた。

 起訴されているのは福岡県春日市、無職、安武輝彦被告(25)。起訴状によると、4月26日夜、福岡市の路上で女性に暴行し、胸を触るなどして、頭や足に傷を負わせたとされる。被告は大筋で起訴内容を認めた。

 林秀文裁判長は冒頭、事件現場を「『福岡市内の遊歩道』とする」と告知し、被告に「絶対に被害者の氏名などを出さないように」と注意した。

 検察側は冒頭陳述に先立ち、裁判員らに法廷で使用を避ける固有名詞が記されたとみられる表を配布。証拠調べでも現場の写真などは裁判員らの手元にある小型モニターにのみ映した。

裁判員裁判 九州初、性犯罪審理へ 福岡地裁 プライバシーに配慮(西日本新聞 2009.10.21)【魚拓
 検察側は冒頭陳述で、「嫌がる女性に無理やり性的関係を迫るなど、女性の人格を無視した身勝手な犯行」と指摘。一方、弁護側は「酒に酔って起こした偶発的な犯行。反省し、慰謝料も払っている」と訴えた。証拠調べでは、女性検事が被害女性の供述調書を朗読。女性のけがの状況を写した写真が裁判官と裁判員の手元のモニターに映されると、一部の裁判員は顔をしかめた。

 午前にあった裁判員選任手続きの出席率は約88%で、6人の裁判員のほか、女性3人の補充裁判員が選ばれた。被害者の氏名や住所は伏せた上で事件現場の近くに住んだり勤めたりしていないかなど、被害者との接点の有無を質問票や面接で確認。検察側も被害女性に事前に候補者リストを見せて知人の名前がないかどうか確認したという。

私が傍聴したのは以上の部分です。

裁判員の構成は40代から60代とおぼしき男性5人、20代の女性1人、補充裁判員は40代ぐらいの女性2人でした。

被告人が罪状を認めているので、争点は犯行中の細かい(例えば、蹴ったか蹴らないかとか)言い分の違いが4点しかなく、ほぼ量刑に集中したようです。ただ、弁護側は冒頭陳述で公判前整理手続きにより争点にならなかった部分にも言及しており、(細かく書くことは控えますが)その部分は、かなり重要な点だと思われ疑問が残りました。

公判開始直後に裁判長から固有名詞についての注意があったり、冒頭陳述や供述調書の読み上げ、証拠調べの際には、裁判員には地図を配り犯行現場を特定されないよう「第○の地点」としたり、固有名詞を言い換えるなど慎重に被害者プライバシーへの配慮をしていたとは思いますが、成功していたとは言いがたい有様でした。(後に詳しく述べます)

以下に2日目以降の部分を

裁判員裁判 性犯罪の審理が結審 福岡地裁 検察、懲役4年求刑 (西日本新聞 2009.10.22 )【魚拓
第2回公判が21日、福岡地裁(林秀文裁判長)であり、被告の母親の証人尋問と被告本人への質問が行われた。6人の裁判員全員が、余罪や更生の可能性を探るものまで幅広い質問をした。

 この後、検察側は論告で懲役4年を求刑。弁護側が最終弁論で「懲役1年6月、執行猶予3年が妥当」と主張し、結審した。
(中略)
 被告への質問で、男性裁判員は「お金がないのに財布を落としたとうそをついてまで(被害者を)デートに誘ったというが、計画的な犯行では」と質問。被告が否定すると「同じように被害に遭って泣き寝入りした女性もいるのではないか」とただした。

 また女性の裁判員は「今後、奥さんから離婚される可能性があるが、自暴自棄になり再び犯罪に走らないか」と尋ねた。このほか複数の裁判員が証人尋問で被告の母親に「近くに支えてくれる人はいますか」などと質問をした。

全員が積極的に質問(朝日新聞の記事キャッシュ 2009.10.22)
 検察側は被害者女性の上申書を紹介。女性は「落ち度があったのではないかと自分を責めている。傷は一生消えない」と振り返る。強制わいせつ致傷罪に問われた安武輝彦被告(25)に対しては「仕返しが怖い。二度と同じ被害者が出ないよう反省してほしい。どのくらいの期間が必要かわからないが、出てきてほしくない」などと訴えた。

 証人尋問は被告の母親が出廷し、被告をどう支えるのか、裁判員が確認した。

 被告人質問で検察側は事件の原因をただすと、被告は「自分の甘さ」と述べた。

 続いて「裁判員1番」の男性が、「社会復帰後の意気込み」を問うと、「信用を取り戻していく」。6番の女性は過去の被告の経験から、「自分にとってつらいことがあるとまた(周囲に)迷惑をかけるのではないか」と不安感を示したが、「悩んだときは母親に相談していく」と述べた。

2日目は被告人質問、証人尋問(被告人の母)、被害者の上申書が読み上げられました。この日の公判で一番気にかかっていたのは、弁護側がどのように立証しようとするかでした。性犯罪の裁判では弁護人はことさら被害者の落ち度を立証したがりますので。報道ではその辺りを伺い知ることはできませんが・・・。
裁判員も積極的に質問(というか発言)していたようですね。今回の裁判では被害者に対する質問が無かったことにホッとしています。

強制わいせつ 被告に懲役2年6月 福岡地裁判決 裁判員「精神的に負担」(西日本新聞 2009.10.24)【魚拓
 福岡地裁(林秀文裁判長)は23日、女性に乱暴したとして、強制わいせつ致傷罪に問われた福岡県春日市の無職安武輝彦被告(25)に懲役2年6月(求刑懲役4年)の実刑を言い渡した。九州で初めてとなる性犯罪対象の裁判員裁判で、判決後に裁判員6人と補充裁判員2人が記者会見に応じ「重い事件内容だったので、精神的にきつかった」などと感想を述べた。

 安武被告は起訴内容をほぼ認めており、裁判官と裁判員による評議での争点は量刑だった。弁護側は「懲役1年6月、執行猶予3年が妥当」と主張していた。

 林裁判長は判決理由で、「強烈な暴行やしつような脅迫を加えたほか、人格を傷つけるわいせつ行為もしており、悪質」と指摘。言い渡しの後、「裁判員も裁判官も立ち直ることを強く願っています」と言葉を掛けた。

参考記事:裁判員裁判:強制わいせつ致傷・被告に実刑/福岡地裁2年6月/裁判員「被害者保護 更なる配慮を」(毎日jp 10/24)【魚拓

大方の予想では執行猶予がつくだろうと思われていましたので、実刑判決が出たと聞き少し意外な感じがしました。ほぼ同時に他所で行われた強制わいせつ致傷事件では執行猶予がついていましたし。そちらの内容が分からないので比べようもないのですが・・・。
私の中にも、これまでの「量刑相場」は染み付いているのでしょう、たぶん。

わいせつ致傷の被告が控訴(産経ニュース 2009.11.6)

後日、被告人は控訴したようです。記事には控訴理由が書かれていませんので、はっきりしたことは言えませんが、たぶん量刑不当でということだと思います。


長くなりましたので、性犯罪を裁判員裁判で審理することや裁判員制度そのものについて、傍聴しながら考えたことなどは次のエントリに分けます。

2009年09月05日

誰のための裁判だったのだろう

裁判員裁判で初めての性犯罪審理が結審し、検察側の求刑通り懲役15年という判決が下された。この量刑が妥当なのかどうか、正直に言って私には分からない。被害者としての感情は妥当だと言っているけれども。


前のエントリで産経新聞による法廷ライブに不快感を表明した。
しかし、全てが記載されていることによって今回の裁判の大きな問題点を知ることができたことも事実。その問題点とは・・・。

被害者の供述調書が証拠として採用されているが、その朗読の冒頭部分を産経新聞から引用する。

「殺されてしまう!」調書からにじみ出る被害者の悲痛な叫び (2/3ページ)(以降、引用は全て産経webより)
《男性検察官による現場の実況見分の説明が終わると、入れ違いに女性検察官が立ち上がり、被害者の女性が犯行の様子を証言した調書の朗読を始めた》
 検察官「朗読する調書はAさんが法廷で証言しているのと同じようなものとしてお聞きください」


以前の裁判では供述調書などは要旨が述べられるだけで、ここまで詳細に朗読されることはなかったが、裁判員裁判では裁判員の負担軽減のためという理由で口頭主義が貫かれている。

判決後のインタビューで、裁判員の男性はこう語っている。

【裁判員3例目 会見(3)】「寂しさ感じた」一方で「涙があふれた」 判決宣告の瞬間に実名明かした男性裁判員が感じた理由は… (2/5ページ)
 渋谷さん「事件を裁く裁判官なり、裁判員は内容を把握しないといけない、と。私たちには、文章などを通して、伝えないといけないと思います」
 「ただ、(法廷では)あまりにも詳細な内容は、伏せる方法でも良いんじゃないかなとも思いました」
 「実際、何がなされたか、ということまで告げられるのは本当にショックでした。傍聴席というのは、誰でも入れる可能性を持っている。それに対して、もう少し対処が必要かな、と思いました」


午前11時20分すぎに始まった証拠調べでは、BさんAさんの供述調書、Aさんの診断書、Aさん叔父の供述調書を朗読し終わったのが12時過ぎだった。全てを朗読するのにかかった時間は40分かそこらなのだ。
被害者の供述調書は要旨の説明だけにして、詳細は書面にして裁判員に読んでもらったとしても、たいした負担にはならないのではないか。傍聴人の目の前での朗読が必要であったとはとても思えない。

女性検事に朗読を交代したのは、裁判員により感情移入してもらうための演出だろう。
この公判での検察官はプレゼン能力が著しく高いとは思うが、これでは裁判ショーだと言われても仕方があるまい。


また、他のメディアでは報道されていないようなのだが、弁護人の最終弁論で非常に気になる発言があった。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090903/trl0909031915025-n1.htm
《さらに弁護人は、田嶋被告が青森県の裁判員裁判の1例目に“狙い撃ち”された可能性もあると指摘する》
 弁護人「捜査機関は被告が認めていれば早期に逮捕することもできたはずなのに、(最初の強盗強姦事件である)第1事件で逮捕されたのは(今年)5月になってからです」
 「そして、その第一声が『お前が裁判員裁判の1号』です。仮に、捜査機関が、逮捕の時期を遅らせて裁判員裁判の時期に合わせて逮捕したとすれば、人権保護の面でも、被害者保護の面でも、いずれも非常に問題です」


もし本当なら、この裁判は検察によって利用されたのだと言って良いだろう。
以下、この件についての検証を試みる。

被告の起訴事実は以下の通り

(1)平成18年7月10日、青森県十和田市の女性方に窃盗目的で窓から侵入、その後帰宅した女性に包丁を示し「言うことを聞け、殺すぞ」などと言って現金1万4千円を奪い、女性を暴行した(第1事件=住居侵入、強盗強姦)

(2)20年6月7日、同市の女性方に窃盗目的で侵入、現金2千円とゲーム機などを盗んだ(第2事件=住居侵入、窃盗)

(3)今年1月7日、同市の男性方に窃盗目的で侵入して現金などを物色したが、発見できず逃走した(第3事件=住居侵入、窃盗未遂)

(4)同日、強盗目的で女性方に強盗目的で水道管の凍結検査を装って訪れ、「おとなしくしろ」などと言い、女性に手錠などをかけ、現金約4万8500円を奪い、暴行した(第4事件=住居侵入、強盗強姦)


被告人は今年2月に第4の事件により逮捕されている。
警察が2年前に起きた第1の事件について被告人の犯行だと知ったのはいつだったのだろうか。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090903/trl0909031523015-n2.htm
 弁護人「(2件目の強盗強姦事件の)第4事件について逮捕されたあなたが(最初の強盗強姦事件の)第1事件のことについて警察に話したのはいつですか」
 被告「第4事件で逮捕される直前に、パトカーの中で第1事件についての関与を話しました」
 弁護人「第1事件について、裁判員裁判の対象事件になるということは、いつごろ聞きましたか」
 被告「3月の中ごろに検事の方から聞きました」


被告人は、第4の事件で任意同行される車の中で第1の事件への関与を話していた。しかも、第1の事件と第4の事件ではDNAが一致している。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090902/trl0909021303008-n2.htm
 
《検察官は続けて、被告が第2事件で盗んだゲーム機を十和田市内のリサイクルショップで売却したことから逮捕に至り、被告のDNA型と、第1事件と第4事件の現場に残された遺留物のDNA型が一致したことを明らかにする》


立証に時間がかかるはずはないのに、第1の事件での再逮捕は5月にずれ込んでいる。弁護人の言うように「捜査機関が、逮捕の時期を遅らせて裁判員裁判の時期に合わせて逮捕した」と考える方が妥当だろう。

5月に裁判員裁判における被害者プライバシーの問題が明らかになる2ヶ月も前から、検察はこの事件の公判を準備していたのだ。きっと担当検事は問題意識のかけらも持ち合わせていなかったのだろう。

何のために、この事件をターゲットにしたのかといえば、私には、話題性の高い事件を選びPRに利用したのだとしか思えない。
(裁判員制度そのものなのか、検察官の有能さのアピールなのかは分からないが)

被害者が勇気を持って意見陳述をしたことや裁判員が法廷で見せた涙を、この事件を担当した捜査関係者はどう思っているのだろうか。

2009年09月03日

初の性犯罪事件(追記あり)

裁判員裁判で初めての性犯罪事件の審理が始まっています。
裁判員選任手続きや公判初日の様子など、毎日新聞から引用します。

裁判員裁判:性犯罪事件で初 被害者配慮、入念に 質問票も工夫 青森地裁6人選任(毎日新聞 2009年9月2日 東京朝刊)
魚拓

 選任手続きには、重要な仕事など事前に辞退が認められた候補者を除き、出席義務がある39人中、34人が出向いた。裁判員に選任されなかった候補者らによると、配布された質問票に事件概要が記されていたが、被害者は「Aさん」「Bさん」として年齢を表記。メモや録音、撮影を控え、被害者情報を口外しないよう求められた。

 また質問票で、被害者が住む自治体について「ご自身や家族が住んでいたり、ご自身が働いているなど、繰り返し訪れる事情がありますか」とも確認された。青森地検によると「被害者の知人や関係者を除外するため質問票に盛り込むよう地裁に求めた」という。続いて、質問票の答えを基に裁判長がグループごとに質問、12人には個別に質問した。「(事件関係者と)接触する機会があるか」と聞かれた候補者もいた。


裁判員裁判:初の性犯罪審理の公判 青森地裁で始まる(毎日新聞 2009年9月2日 11時32分)
魚拓

 小川裁判長は検察側の起訴状朗読前に、性犯罪の被害者について「被害者保護のため、Aさん、Bさんとして、住所と年齢は読みません」と田嶋被告に説明。検察側は説明通り名前を「A」「B」と表現し、住所も「青森県内」にとどめた。

 田嶋被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。小川裁判長が「この法廷では被告も(被害者の)名前を口にすることは絶対にしないでください」と確認すると、うなずいた。

 続いて検察側が冒頭陳述で「女性の人格を無視した卑劣な犯行」と悪質さを強調すると、女性裁判員が大きくうなずいた。証拠調べでは、「被害者のプライバシーのため」と説明して傍聴席から見える大型ディスプレーの電源を切った。事件を再現した写真が示されると、モニターから目を背ける男性裁判員もいた。


雑感を少しだけ。

裁判所、検察とも、かなり工夫をして被害者プライバシーに配慮をしているようですが・・・。
メディアの関心が非常に高く、多くの報道がなされています。産経新聞では今回も法廷ライブのような記事を書いていますね。(あえてリンクはしません)

しかし、ここまで関心が高まってしまうこと自体、被害者にとってはプレッシャーだろうなと思います。裁判員裁判でなければ注目が集まることもなかったでしょうし、公判の様子がこれどまで詳細に報道されることもなかったでしょうから。犯行の様子など傍聴人に聞かれることすら辛いはずですが、それが記事になり一般の人の目に触れる事態になってしまい、被害者の心痛はいかばかりかと思います。犯行の詳細を知って一般の人になんのメリットがあるのか、とても疑問です。

今回の事件では「被害者の落ち度」が問われることは無さそうなので少し安心していますが、もっと微妙な事件だったらどうなるでしょうね。
また、今回も裁判員の性別や年齢に非常に偏りがあるようです。仕事や生活のために辞退せず裁判員ができる一定の「層」がある気がします。その中からくじ引きで選ぶのでは、偏りが出るのは当たり前かも知れません。裁判における「公平」の意味をもう一度考え直した方が良いのではないかと思いました。

【13:40ころ追記】
見落としていた記事を発見しました。大切なところなので長めに引用します。

<裁判員裁判>5裁判員が被告に質問 青森地裁(9月2日22時32分配信 毎日新聞)
魚拓

◇検察側、事件の内容を詳細に説明

 公判で検察側は、被害者のプライバシーに配慮して名前や年齢を伏せたが、事件状況については被告や被害者の供述調書を読み上げるなど詳細な説明をした。被告の悪質さを示すには一定の説明は避けられないが、裁判員制度の「口頭主義」と、被害者保護のバランスの難しさが浮かんだ。

 従来の裁判は書面審理が中心。事件によっては、裁判官は膨大な書面を読む必要があったが、法廷の場では供述調書の内容などは要旨だけが読み上げられるケースが多かった。しかし、裁判員裁判では、一般市民が書面を読み込む負担の軽減と審理期間の短縮を図るため、「法廷で見て聞いて分かる立証」を原則としている。

 検察側は証拠説明で再現写真などを示す際には、傍聴席から見える大型ディスプレーの電源を切断。被告の供述調書の読み上げでは一部を省略し「調書の写しをご覧ください」と説明したが、性的暴行の内容については詳述した。

 傍聴した中京大法科大学院の柳本祐加子准教授(ジェンダー法)は「供述調書をそこまで読み上げる必要があるのか」と疑問を投げかけた。ネット上に流出する可能性も指摘し「警察に届け出ない人がますます増えるのでは」と懸念した。

 青森地検の吉松悟検事正は「被害者には、やむを得ないことだと納得してもらっている」と説明。ある刑事裁判官は「検事から『犯人を重く処罰するために必要です』と言われれば被害者は嫌と言えない。『こんなに詳細に語られるとは思わなかった』と感じた可能性はある。ただ、証人尋問で本人の口から語らせるよりは良かったかもしれない」と話した。


エントリ中で、一般の人が犯行の詳細を知る必要があるのか疑問と書きましたが、以前の公判でどの程度犯行内容が読み上げられていたか把握できていませんでした、私。

裁判員裁判になったから詳細が読み上げられたのですね....orz
柳本祐加子准教授が指摘されているとおり、すでにネット上に流出しています。しかも新聞の記事として。

「やむを得ないことだと納得してもらっている」って本当なんでしょうか?
以前にも検察がいう「わかりやすさ」の弊害について書きましたが、裁判員の負担を思うあまりに、被害者の負担や裁判の公正さを置き去りにしているのではないでしょうか。
誰のための裁判員制度なんでしょうね。

続編:誰のための裁判だったのだろう