2009年11月16日

【裁判員裁判傍聴】問題が山積(1)

先月20日から福岡地裁で行われた、強制わいせつ致傷の公判を傍聴してきました。すぐにエントリをアップしたかったのですが、諸処の事情で延びのびになってしまいました。

私が傍聴したのは20日の初公判だけなので、事件の概要や裁判の様子を新聞記事から引用しつつ紹介します。

裁判員裁判:九州・山口初の性犯罪事件、被害者名伏せ審理 2次被害配慮--福岡地裁(毎日新聞 2009.10.21)【魚拓
 強制わいせつ致傷事件を審理する裁判員裁判が20日、福岡地裁で始まった。九州・山口初の性犯罪対象の裁判員裁判。裁判員選任にあたり、福岡地検が事前に裁判員候補者名簿を被害者に見せて知人がいないかどうか確認。法廷では、大型ディスプレーを使わないなど、被害者のプライバシーや2次被害への配慮がうかがわれた。

 起訴されているのは福岡県春日市、無職、安武輝彦被告(25)。起訴状によると、4月26日夜、福岡市の路上で女性に暴行し、胸を触るなどして、頭や足に傷を負わせたとされる。被告は大筋で起訴内容を認めた。

 林秀文裁判長は冒頭、事件現場を「『福岡市内の遊歩道』とする」と告知し、被告に「絶対に被害者の氏名などを出さないように」と注意した。

 検察側は冒頭陳述に先立ち、裁判員らに法廷で使用を避ける固有名詞が記されたとみられる表を配布。証拠調べでも現場の写真などは裁判員らの手元にある小型モニターにのみ映した。

裁判員裁判 九州初、性犯罪審理へ 福岡地裁 プライバシーに配慮(西日本新聞 2009.10.21)【魚拓
 検察側は冒頭陳述で、「嫌がる女性に無理やり性的関係を迫るなど、女性の人格を無視した身勝手な犯行」と指摘。一方、弁護側は「酒に酔って起こした偶発的な犯行。反省し、慰謝料も払っている」と訴えた。証拠調べでは、女性検事が被害女性の供述調書を朗読。女性のけがの状況を写した写真が裁判官と裁判員の手元のモニターに映されると、一部の裁判員は顔をしかめた。

 午前にあった裁判員選任手続きの出席率は約88%で、6人の裁判員のほか、女性3人の補充裁判員が選ばれた。被害者の氏名や住所は伏せた上で事件現場の近くに住んだり勤めたりしていないかなど、被害者との接点の有無を質問票や面接で確認。検察側も被害女性に事前に候補者リストを見せて知人の名前がないかどうか確認したという。

私が傍聴したのは以上の部分です。

裁判員の構成は40代から60代とおぼしき男性5人、20代の女性1人、補充裁判員は40代ぐらいの女性2人でした。

被告人が罪状を認めているので、争点は犯行中の細かい(例えば、蹴ったか蹴らないかとか)言い分の違いが4点しかなく、ほぼ量刑に集中したようです。ただ、弁護側は冒頭陳述で公判前整理手続きにより争点にならなかった部分にも言及しており、(細かく書くことは控えますが)その部分は、かなり重要な点だと思われ疑問が残りました。

公判開始直後に裁判長から固有名詞についての注意があったり、冒頭陳述や供述調書の読み上げ、証拠調べの際には、裁判員には地図を配り犯行現場を特定されないよう「第○の地点」としたり、固有名詞を言い換えるなど慎重に被害者プライバシーへの配慮をしていたとは思いますが、成功していたとは言いがたい有様でした。(後に詳しく述べます)

以下に2日目以降の部分を

裁判員裁判 性犯罪の審理が結審 福岡地裁 検察、懲役4年求刑 (西日本新聞 2009.10.22 )【魚拓
第2回公判が21日、福岡地裁(林秀文裁判長)であり、被告の母親の証人尋問と被告本人への質問が行われた。6人の裁判員全員が、余罪や更生の可能性を探るものまで幅広い質問をした。

 この後、検察側は論告で懲役4年を求刑。弁護側が最終弁論で「懲役1年6月、執行猶予3年が妥当」と主張し、結審した。
(中略)
 被告への質問で、男性裁判員は「お金がないのに財布を落としたとうそをついてまで(被害者を)デートに誘ったというが、計画的な犯行では」と質問。被告が否定すると「同じように被害に遭って泣き寝入りした女性もいるのではないか」とただした。

 また女性の裁判員は「今後、奥さんから離婚される可能性があるが、自暴自棄になり再び犯罪に走らないか」と尋ねた。このほか複数の裁判員が証人尋問で被告の母親に「近くに支えてくれる人はいますか」などと質問をした。

全員が積極的に質問(朝日新聞の記事キャッシュ 2009.10.22)
 検察側は被害者女性の上申書を紹介。女性は「落ち度があったのではないかと自分を責めている。傷は一生消えない」と振り返る。強制わいせつ致傷罪に問われた安武輝彦被告(25)に対しては「仕返しが怖い。二度と同じ被害者が出ないよう反省してほしい。どのくらいの期間が必要かわからないが、出てきてほしくない」などと訴えた。

 証人尋問は被告の母親が出廷し、被告をどう支えるのか、裁判員が確認した。

 被告人質問で検察側は事件の原因をただすと、被告は「自分の甘さ」と述べた。

 続いて「裁判員1番」の男性が、「社会復帰後の意気込み」を問うと、「信用を取り戻していく」。6番の女性は過去の被告の経験から、「自分にとってつらいことがあるとまた(周囲に)迷惑をかけるのではないか」と不安感を示したが、「悩んだときは母親に相談していく」と述べた。

2日目は被告人質問、証人尋問(被告人の母)、被害者の上申書が読み上げられました。この日の公判で一番気にかかっていたのは、弁護側がどのように立証しようとするかでした。性犯罪の裁判では弁護人はことさら被害者の落ち度を立証したがりますので。報道ではその辺りを伺い知ることはできませんが・・・。
裁判員も積極的に質問(というか発言)していたようですね。今回の裁判では被害者に対する質問が無かったことにホッとしています。

強制わいせつ 被告に懲役2年6月 福岡地裁判決 裁判員「精神的に負担」(西日本新聞 2009.10.24)【魚拓
 福岡地裁(林秀文裁判長)は23日、女性に乱暴したとして、強制わいせつ致傷罪に問われた福岡県春日市の無職安武輝彦被告(25)に懲役2年6月(求刑懲役4年)の実刑を言い渡した。九州で初めてとなる性犯罪対象の裁判員裁判で、判決後に裁判員6人と補充裁判員2人が記者会見に応じ「重い事件内容だったので、精神的にきつかった」などと感想を述べた。

 安武被告は起訴内容をほぼ認めており、裁判官と裁判員による評議での争点は量刑だった。弁護側は「懲役1年6月、執行猶予3年が妥当」と主張していた。

 林裁判長は判決理由で、「強烈な暴行やしつような脅迫を加えたほか、人格を傷つけるわいせつ行為もしており、悪質」と指摘。言い渡しの後、「裁判員も裁判官も立ち直ることを強く願っています」と言葉を掛けた。

参考記事:裁判員裁判:強制わいせつ致傷・被告に実刑/福岡地裁2年6月/裁判員「被害者保護 更なる配慮を」(毎日jp 10/24)【魚拓

大方の予想では執行猶予がつくだろうと思われていましたので、実刑判決が出たと聞き少し意外な感じがしました。ほぼ同時に他所で行われた強制わいせつ致傷事件では執行猶予がついていましたし。そちらの内容が分からないので比べようもないのですが・・・。
私の中にも、これまでの「量刑相場」は染み付いているのでしょう、たぶん。

わいせつ致傷の被告が控訴(産経ニュース 2009.11.6)

後日、被告人は控訴したようです。記事には控訴理由が書かれていませんので、はっきりしたことは言えませんが、たぶん量刑不当でということだと思います。


長くなりましたので、性犯罪を裁判員裁判で審理することや裁判員制度そのものについて、傍聴しながら考えたことなどは次のエントリに分けます。
この記事へのコメント
法廷における判決が、「何故guilty or innocentではなく、guilty or not guiltyなのか」という法理の基本をイギリスでは小学校の高学年で教えるのだと仄聞します。 10年経てば陪審員になり、人を裁かねばならないからです。 
日本で上記の質問に対し、または何故推定無罪でなければならないか、何故グレーは無罪とせねばならないのか、などの質問に対し、しっかり答えられる社会人が一体どれほどいるか。 
過半にも満たない、というのが私の印象。

本エントリーのわいせつ事案とはずれてしまい恐縮ですが。
バラバラ殺人→凶悪な鬼畜。 これが過半の感覚でしょう。 しかし、バラバラ殺人の7割だか8割は、発作的に人を殺してしまい、死体の処理に困ってバラバラにしてしまった、というのが実態だそうですね。
本当に凶悪な鬼畜は、用意周到に、自殺、事故死に見せかけ、事後も平然と日常生活を送っている殺人者です。

事件に限らず、政治、経済、社会問題についても、ハレーションに幻惑され、実体を見落とす、見過ごす、また俗情にかられ、実相を見誤る、そういう人々には裁かれたくないものです。
Posted by rice_shower at 2009年11月19日 10:39
>rice_showerさん
コメントありがとうございます。

rice_showerさんの懸念(というより落胆)は、全くその通りだと私も思います。
現在の裁判員制度や被害者参加制度は、被告人にとっては非常に不利な制度であり、刑事裁判の根幹に関わる不備があると言わざるを得ません。

新しいエントリに少しだけ盛り込みましたので、お読みいただければ幸いです。
Posted by akira at 2009年11月19日 16:18
9/30 前橋地裁で強制わいせつ致障の判決がありました。

かなりヒドイ内容で、余罪も3件(被害者が19歳など若かったせいか3件は取り下げてしまったようです)あったのにも関わらず、しかも住居侵入で寝込みの女子大生を狙って…

なのに、起訴を取り下げなかった1件だけの審議で…執行猶予ついてしまいました…。

正直疑問です。

覗きもやってたようです。

裁判で競った女性は26歳で車に乗り込むところを狙われロックされ脅され顔殴られ(全治2週間くらい)服を脱げと脅され陰部を口に入れられたと聞きました。恐すぎます。

そんなヒドイ事して、しかも住居侵入まで余罪あるのに、なにが情状酌量で執行猶予なんでしょうか?
全くわかりません。
保護観察付き執行猶予5年と今日わかりましたが、
実は離婚した前夫の性犯罪事件でして…

同じ女性として許せないし、そんな奴とは知らず生活していたなんて吐き気がするし、
私は恐くて外出できなくなりました。

いったい法律ってどうなってるんでしょう…
Posted by るぅ at 2010年10月04日 00:05
>るぅさん
はじめまして。コメントありがとうございます。

>実は離婚した前夫の性犯罪事件でして…

うわぁ。それはきついですね。
私も初めて付き合った人が、その後、強姦事件を起こして実刑になったというのを知って、ものすごくショックでした。お気持ち分かる気がします。

余罪もあったのに執行猶予ですか…
裁判員裁判になってから、取り下げが増えたのかどうか気に掛かります。
Posted by akira at 2010年10月04日 23:50

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