誰のための裁判だったのだろう

裁判員裁判で初めての性犯罪審理が結審し、検察側の求刑通り懲役15年という判決が下された。この量刑が妥当なのかどうか、正直に言って私には分からない。被害者としての感情は妥当だと言っているけれども。


前のエントリで産経新聞による法廷ライブに不快感を表明した。
しかし、全てが記載されていることによって今回の裁判の大きな問題点を知ることができたことも事実。その問題点とは・・・。

被害者の供述調書が証拠として採用されているが、その朗読の冒頭部分を産経新聞から引用する。

「殺されてしまう!」調書からにじみ出る被害者の悲痛な叫び (2/3ページ)(以降、引用は全て産経webより)
《男性検察官による現場の実況見分の説明が終わると、入れ違いに女性検察官が立ち上がり、被害者の女性が犯行の様子を証言した調書の朗読を始めた》
 検察官「朗読する調書はAさんが法廷で証言しているのと同じようなものとしてお聞きください」


以前の裁判では供述調書などは要旨が述べられるだけで、ここまで詳細に朗読されることはなかったが、裁判員裁判では裁判員の負担軽減のためという理由で口頭主義が貫かれている。

判決後のインタビューで、裁判員の男性はこう語っている。

【裁判員3例目 会見(3)】「寂しさ感じた」一方で「涙があふれた」 判決宣告の瞬間に実名明かした男性裁判員が感じた理由は… (2/5ページ)
 渋谷さん「事件を裁く裁判官なり、裁判員は内容を把握しないといけない、と。私たちには、文章などを通して、伝えないといけないと思います」
 「ただ、(法廷では)あまりにも詳細な内容は、伏せる方法でも良いんじゃないかなとも思いました」
 「実際、何がなされたか、ということまで告げられるのは本当にショックでした。傍聴席というのは、誰でも入れる可能性を持っている。それに対して、もう少し対処が必要かな、と思いました」


午前11時20分すぎに始まった証拠調べでは、BさんAさんの供述調書、Aさんの診断書、Aさん叔父の供述調書を朗読し終わったのが12時過ぎだった。全てを朗読するのにかかった時間は40分かそこらなのだ。
被害者の供述調書は要旨の説明だけにして、詳細は書面にして裁判員に読んでもらったとしても、たいした負担にはならないのではないか。傍聴人の目の前での朗読が必要であったとはとても思えない。

女性検事に朗読を交代したのは、裁判員により感情移入してもらうための演出だろう。
この公判での検察官はプレゼン能力が著しく高いとは思うが、これでは裁判ショーだと言われても仕方があるまい。


また、他のメディアでは報道されていないようなのだが、弁護人の最終弁論で非常に気になる発言があった。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090903/trl0909031915025-n1.htm
《さらに弁護人は、田嶋被告が青森県の裁判員裁判の1例目に“狙い撃ち”された可能性もあると指摘する》
 弁護人「捜査機関は被告が認めていれば早期に逮捕することもできたはずなのに、(最初の強盗強姦事件である)第1事件で逮捕されたのは(今年)5月になってからです」
 「そして、その第一声が『お前が裁判員裁判の1号』です。仮に、捜査機関が、逮捕の時期を遅らせて裁判員裁判の時期に合わせて逮捕したとすれば、人権保護の面でも、被害者保護の面でも、いずれも非常に問題です」


もし本当なら、この裁判は検察によって利用されたのだと言って良いだろう。
以下、この件についての検証を試みる。

被告の起訴事実は以下の通り

(1)平成18年7月10日、青森県十和田市の女性方に窃盗目的で窓から侵入、その後帰宅した女性に包丁を示し「言うことを聞け、殺すぞ」などと言って現金1万4千円を奪い、女性を暴行した(第1事件=住居侵入、強盗強姦)

(2)20年6月7日、同市の女性方に窃盗目的で侵入、現金2千円とゲーム機などを盗んだ(第2事件=住居侵入、窃盗)

(3)今年1月7日、同市の男性方に窃盗目的で侵入して現金などを物色したが、発見できず逃走した(第3事件=住居侵入、窃盗未遂)

(4)同日、強盗目的で女性方に強盗目的で水道管の凍結検査を装って訪れ、「おとなしくしろ」などと言い、女性に手錠などをかけ、現金約4万8500円を奪い、暴行した(第4事件=住居侵入、強盗強姦)


被告人は今年2月に第4の事件により逮捕されている。
警察が2年前に起きた第1の事件について被告人の犯行だと知ったのはいつだったのだろうか。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090903/trl0909031523015-n2.htm
 弁護人「(2件目の強盗強姦事件の)第4事件について逮捕されたあなたが(最初の強盗強姦事件の)第1事件のことについて警察に話したのはいつですか」
 被告「第4事件で逮捕される直前に、パトカーの中で第1事件についての関与を話しました」
 弁護人「第1事件について、裁判員裁判の対象事件になるということは、いつごろ聞きましたか」
 被告「3月の中ごろに検事の方から聞きました」


被告人は、第4の事件で任意同行される車の中で第1の事件への関与を話していた。しかも、第1の事件と第4の事件ではDNAが一致している。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090902/trl0909021303008-n2.htm
 
《検察官は続けて、被告が第2事件で盗んだゲーム機を十和田市内のリサイクルショップで売却したことから逮捕に至り、被告のDNA型と、第1事件と第4事件の現場に残された遺留物のDNA型が一致したことを明らかにする》


立証に時間がかかるはずはないのに、第1の事件での再逮捕は5月にずれ込んでいる。弁護人の言うように「捜査機関が、逮捕の時期を遅らせて裁判員裁判の時期に合わせて逮捕した」と考える方が妥当だろう。

5月に裁判員裁判における被害者プライバシーの問題が明らかになる2ヶ月も前から、検察はこの事件の公判を準備していたのだ。きっと担当検事は問題意識のかけらも持ち合わせていなかったのだろう。

何のために、この事件をターゲットにしたのかといえば、私には、話題性の高い事件を選びPRに利用したのだとしか思えない。
(裁判員制度そのものなのか、検察官の有能さのアピールなのかは分からないが)

被害者が勇気を持って意見陳述をしたことや裁判員が法廷で見せた涙を、この事件を担当した捜査関係者はどう思っているのだろうか。

この記事へのコメント

  • rice_shower

    アメリカの法廷ドラマには、すごく良く出来たものが多くて(例えばCSでやってた『ザ・プラクティス』とか)、白状すると、私の米陪審員制についての知識は、ほとんどこれらのTVドラマ、映画だったりするのですが、とても印象的だったのが、検察官と弁護士が陪審員の選出において、猛烈に鬩ぎ合うシーン。 双方がacceptableな12人が選ばれるまで、徹底的にNGの応酬が繰り返される。 米の司法に詳しいジャーナリストが、(大きな裁判では)実際あの通りだと言っていました。 弁護士のために、陪審員候補の身上調査をやるサービス会社も有るのだそうです。 公的権力により、個人情報入手が可能な検察とのバランスを取るため、との法理的名分に依るのですが、“裁判がビジネスになっている”という弊害もまた深刻なようです。

    職業裁判官は信頼できない、日本国民のlegal mindはもっと信じられない、ならば、出来てしまった制度をbetterなものとするために、先行国の実情を学び、国民が真摯で、果敢な、深い議論をすることが望まれるのですが、「民度が!!!」という我が内なる声に、どう答えたら良いのやら。
    2009年09月07日 10:10
  • akira

    >rice_showerさん
    コメントありがとうございます。

    私もドラマか何で、陪審員を選出するシーンを見た記憶があります。
    検察官、弁護士ともに、双方の利害をかけた戦いですよね。自分の不利になりそうな陪審員は選びたくないというのは、確かにその通りでしょう。

    >弁護士のために、陪審員候補の身上調査をやるサービス会社も有るのだそうです。 公的権力により、個人情報入手が可能な検察とのバランスを取るため、との法理的名分に依るのですが、“裁判がビジネスになっている”という弊害もまた深刻なようです。<

    弁護士の成功報酬は日本とは桁違いだと聞きますからね。

    日本の裁判員制度では、裁判員の選任はくじ引きになっているのが、はたして本当によいことなのか、ちと疑問もあります。
    (裏があるのではないという意見も漏れ聞きます。真偽の程は判断保留)

    制度開始前に、面接で裁判官からどのような質問を受けるか分からないという疑念が方々で言われていましたが、その辺はクリアになったのでしょうか。どんな質問だったかを言うのは守秘義務違反にはならないと思うのですが・・・。余り聞こえてきませんね。

    検察側は立証におけるプレゼンテーションに時間もお金もかけることができますが、国選弁護人にはそれは無理でしょうね。この辺のアンバランスさを3件の裁判員裁判を通して感じているところです。
    被告人の防御権をどう担保していくか、刑事裁判本来の意義を忘れずに議論していけたらと思います。
    2009年09月08日 13:55
  • rice_shower

    >裏があるのではないという意見も漏れ聞きます
    それは感じます。 変に、妙に、“世間的、常識的”な判決が出ていますからね。

    >国選弁護人にはそれは無理でしょうね
    一方、志は高く深いのに、現司法体制に埋もれてしまっている弁護士(第二、第三の安田さん、みたいな)がのし上る機会も有るのかな、とも思えますが、未だ分りません。
    2009年09月08日 21:34

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